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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)7584号 判決

原告 金商又一株式会社

右訴訟代理人弁護士 井上峯亀

同 風間士郎

被告 破産者株式会社東京機械商事破産管財人 吉野末雄

主文

一、破産者株式会社東京機械商事に対する東京地方裁判所昭和三五年(フ)第四一号破産事件において、原告が金四七七万四、〇〇〇円の破産債権を有することを確定する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「一、原告は昭和三五年一月二八日現在株式会社東京機械商事(以下破産会社という。)に対し融資金残債権合計金四七七万四、〇〇〇円を有していたところ同日、右債務の担保として破産会社よりその所有の文書細断機合計三〇台(〇、五馬力、A3-33型のもの一七台、一馬力A3-B型のもの四台、三馬力、B-3B型のもの一台および七、五馬力、B-G型のもの八台)を引渡されてこれに質権の設定を受けるとともに、原告において必要と認めるときは直ちに時価と同額の代物弁済としてその所有権を取得しうる旨の代物弁済の予約を破産会社との間に結び、同月三〇日同会社に対し、右文書細断機のうち七、五馬力のもの四台を除く爾余の二六台の時価を合計金四七七万四、〇〇〇円と評価し、前記融資金残債権と同額の代物弁済として右二六台を取得する旨の右予約完結の意思表示をし、右文書細断機二六台の所有権を取得した。

二、破産会社は同年二月四日支払を停止し、同年三月一六日東京地方裁判所において破産の宣告を受け(同裁判所昭和三五年(フ)第四一号破産事件として係属)現在被告がその破産管財人に選任されている。

三、右破産会社破産管財人は前記代物弁済予約を対象とし原告を相手方とする否認権行使の訴を東京地方裁判所に提起し(同裁判所昭和三五年(ワ)第六、一二三号否認権行使に基づく価額償還請求事件として係属)、同裁判所において昭和三八年八月一六日右事件につき言渡した判決に対し、原告より東京高等裁判所に控訴の申立をした(同裁判所昭和三八年(ネ)第一、九八四号事件として係属)ところ同裁判所は昭和四二年一一月二九日、前記代物弁済予約等の契約は否認されるべきであるから、控訴会社(本件原告)は破産管財人たる被控訴人(本件被告)に対し前記文書細断機二六台を返還すべき義務があり、またその返還不能の場合にはその返還に代えその価額を償還すべき義務があるというべきところ、控訴会社はそのうち一馬力のもの二台および七、五馬力のもの四台を現在なお保有しているが、その余の文書細断機はすでに他に売却しその返還をすることができない状況にある旨認定判断し、かつ各文書細断機の価格を認定(返還をすることができない状況にある分の価格合計金二二〇万五、〇〇〇円と算定)し、これを理由として、「控訴人(本件原告)は被控訴人(本件被告)に対し前記文書細断機のうち一馬力(A3-B型)のもの二台および七、五馬力(B-G型)のもの四台を引渡し、かつ金二二〇万五〇〇〇円を支払うべし。もし控訴人が被控訴人に対し右文書細断機を引渡すことができないときは、前者一台につき金一三万円を、後者一台につき金二〇万円を支払うべし。」との趣旨の判決を言渡し、同年一二月一三日右判決の確定をみた。

四、そこで原告は右判決にしたがって被告に対し、同月二五日右金二二〇万五〇〇〇円を支払い償還し、かつ昭和四三年三月一九日右文書細断機一馬力のもの二台および七、五馬力のもの四台を引渡し返還するとともに、昭和四二年一二月一四日、東京地方裁判所昭和三五年(ク)第四一号破産事件につき同裁判所に破産債権として前記融資金残債権金四七七万四、〇〇〇円の届出をしたところ、昭和四三年五月三一日の債権調査期日において右債権に対し被告より異議があった。

五、よって原告は右破産債権を有することの確定を求める。」

旨陳述し、

被告の消滅時効の主張に対し、

「原告主張の債権が商取引にもとづくものであり、被告主張のような割賦弁済の約束がされていることおよび否認権行使の訴状が被告主張の日に原告に送達されたことはいずれも認める。しかしながら、

一、否認権行使の訴訟において破産者の弁済行為が否認されるまでは、弁済行為は有効であり、原告において自己の権利を行使することが全く不可能な状態に置かれていたものであって、原告が昭和四二年一二月二五日および翌四三年三月一九日その受けた給付の返還およびその価額の償還をするのと同時に、原告主張の債権は復活しこの時から始めて右債権を行使することが可能となったのであるから、被告の消滅時効完成の主張はそれ自体失当である。もし被告主張のとおりであるとするならば、原告は代物弁済により旧債権が消滅したため破産債権者としての権利を行使することができず、また代物弁済が否認されたときに、その否認権行使の訴訟の審理が長びけば、消滅時効の完成によってその債権を行使しえなくなるという不合理な結果が生じる。したがって本件債権の消滅時効は右返還および償還によって債権が復活した時からその進行を開始するものというべきである。しかも本訴提起により右時効は中断しているのである。

二、仮に被告主張のいずれかの時点から消滅時効が進行すべきものであるとしても、被告は否認権行使の訴訟においてその訴状の送達を受けた時から控訴審の口頭弁論終結時である昭和四二年八月九日に至るまでひきつづき本件債務を承認していたものであるから、この承認によって右時効は中断した。被告において右訴訟で代物弁済のされたことを主張することは、既存債権の存在したことを認めたうえで始めてこれをすることができるわけであるから、この主張において被告が本件債務を承認していたことは明白である。また被告側は終始右訴訟で、破産会社は原告に対し金四七七万四、〇〇〇円の残債務を負担していたが、右債務につき文書細断機を代物弁済とする旨の契約を結んだと主張し、右訴訟の第一、二審判決においても、破産会社が残債務金四七七万四、〇〇〇円の存することを確認するとともに、原告が右債務の代物弁済として文書細断機を取得することとし、その旨の予約完結の意思表示をした、と認定しているのであって、これらのことからも、被告が右承認をしたことは明らかである。」と述べた。

第二、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、次のとおり主張した。

原告主張の請求原因事実はすべて認める。

しかしながら、原告主張の債権は商取引にもとづくものであり、これを破産会社において昭和三五年三月から同年一二月まで毎月末日限り金五〇万円ずつ(ただし最終回は金二七万四、〇〇〇円)割賦弁済すべき旨約定されていたのであって、しかも同会社の破産管財人は右債権についてされた代物弁済の予約に対し原告主張の否認権行使の訴を提起し、その訴状が昭和三五年八月五日原告に送達され、否認は同日その効果を生じたのであるから、右債権は、翌六日から、あるいはおそくとも右最終弁済期日の翌日である昭和三六年一月一日から起算して五年の期間の経過とともに時効によって消滅した。しかるにその後の昭和四二年一二月一四日に至って原告がその主張のような債権の届出をしたので、被告は翌四三年五月三一日の債権調査期日において右時効を援用し異議を述べたのである。

なお右否認権行使の訴訟において被告側は破産会社が原告に対しその主張の債務を負担しており、原告との間にその主張のような代物弁済予約等の契約を締結した旨陳述しているけれども、右陳述は破産会社のした債務負担の承認および契約締結の事実を主張しただけであって、それは、破産管財人が時効中断事由たる承認をしたという意義をもつものではない。すなわち、破産管財人が否認訴訟の必要上前提事実たる否認権の対象たる事実を主張することは、債務の承認には当らないのである。

第三、証拠〈省略〉

理由

原告主張の請求原因事実は全部当事者間に争がない。

右事実によれば、原告が昭和三五年一月二八日現在破産会社に対し融資金残債権四七七万四、〇〇〇円を有していたところ、同日両者間において原告が必要を認めるときは右債務の弁済に代えて破産会社よりその所有にかゝる原告主張の文書細断機合計三〇台につき右債務額と同額の時価を有する分につきその譲渡を受けうる旨の代物弁済の予約が結ばれ、翌々三〇日原告は破産会社に対し右債務の弁済として、すでに引渡を受けている右三〇台のうち原告主張の二六台を取得する旨の予約完結の意思表示をし、右二六台の所有権を取得したこと、しかるに破産管財人によって破産会社の右代物弁済予約の行為が否認されたので、相手方たる原告が、破産管財人である被告に対し、原告の受けた給付たる文書細断機二六台のうち現存する六台を返還し、返還不能の爾余の二〇台の価額に相当する金二二〇万五、〇〇〇円を償還したことが明らかである。

ところで原告主張の否認の訴の訴状が原告に送達された昭和三五年八月五日(この日に右訴状の送達されたことは当事者間に争がない。)に否認の効果が直ちに生じ、否認された代物弁済予約の行為は破産財団との関係においてその効力を失い、破産財団は右行為のされた以前の状態に復元するけれども、破産法第七九条の規定によれば、相手方たる原告の本件債権は、これと異なり、その受けた給付の返還ないし価額の償還がされた時に始めて、これによりかつその限度において原状に復するものと解される。

したがって本件債権は、昭和四二年一二月二五日金二二〇万五、〇〇〇円が支払われた時これに相応する部分が、ついで翌四三年三月一九日文書細断機六台が引渡された時これに相応する爾余の部分が、それぞれ原状に復したものと認められるから、右の各日以後始めて右各部分の権利を行使しえたものというべく、したがって右各日以降本件債権のうち当該部分の消滅時効が進行するものというべきである。そして本訴の提起された日が昭和四三年七月五日であることは記録上明らかであるから、おそくともこの時に右時効は中断し、未だ完成していない。

本件債権が時効によって消滅した旨の被告の主張は採用し難い。

よって破産会社に対する当裁判所昭和三五年(フ)第四一号破産事件において原告が金四七七万四、〇〇〇円の破産債権を有することの確定を求める本訴請求は理由があるからこれを認容する。〈以下省略〉。

(裁判官 萩原直三)

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